お昼に買ったリベを読んでいて、「編集手帳」の蕭何(しょうか)のはなしを思い出した。
「大学生・オプション『イライラ』」
パリの物価について行けない、国の補助が減ってアパートの家賃が払えない、歯医者の治療費が払えない・・・学生への補助なんてめったにお目にかからない国から来た者には、この国の経済はよくない、と感じる。一生懸命隠しているが、豊かな先進国ではないと、みんなが知っている。
ベトナム人の後輩が、「寮を追い出された」という。Master(大学院)以上の登録でないと、外国人は寮からも締め出しを食う。だが、今年、文学部はヨーロッパ人の外国人学生を大量に受け入れている。
数年前から感じていた「歪み」が明らかに現象として見え出した。 フランスにいても日本にいても、きっと世界の「都市」と呼ばれる場所のどこにいても、これは明らかだ。 『猟犬』のみが、生き残り、評価され、正しい、という世界。 日本の友人から、相変わらず、そういう日本の横顔を悔し紛れに書きなぐった、憤懣もれもれメールが届く。 自分には動かせない流れに憤り、嘆き、同胞を卑下しても、何も生まれない。 自分の鼻が憎たらしくて噛み付こうとするようなものだ。
授業の後のいつもの帰り道で、ふと、足元に茶色いものを見かけた。通り過ぎて、立ち止まって、戻って拾ってみたら、つやつやとした栗だった。 こういう世の中だからこそ、わたしは立ち止まり、噛み付くだけの人間ではない蕭何のような人間になろうと思う。そして、たくさんの蕭何を見つけられる人間になろうと思う。静かに、そういう人間のすばらしさを見つめられるように。
イガイガの中には、きっとつるつる光る美しいものが潜んでいるのだ。