生徒さんに、こんな記事のリンクを送ってもらった。「いいね」は良くなくて「悪くない」は実はホメてる、イギリス人の本音と建前翻訳ガイド(ギズモード・ジャパン)
「フランス語でもこんなのあるんでしょうか?」というので、仏語訳をして考えてみましたら、 はげしく怖い話になりました。 以下、心して読んで下さい(ブルブル)。なんつって。
こちらタテマエ 1) Je comprends ce que vous voulez dire. (あなたのおっしゃりたいことはわかります) 2) Avec un grand respect, (心からの尊敬を込めつつ) 3) C'est pas mal (du tout) ((全く)悪くないね) 4) C'est une proposition très brave (勇気ある提案ですね) 5) Assez bien (plutôt bien/bon) (まぁまぁ良いんじゃない、良い方だと思うよ) 6) Je voudrais vous proposer... (提案させて頂きますと・・・) 7) Au fait / A propos (ところで) 8) Je suis un peu déçu par là. (そこのところがちょっと残念なんですよね) 9) Très intéressant (とても興味深い) 10) Je tiendrai compte de ça. (考慮に入れるようにしますよ) 11) Je suis sûr que c'est ma faute. (本当に私のミスですよ) 12) Tu dois venir dîner chez moi. (うちに夕ご飯食べに来なくちゃね) 13) Je suis presque d'accord avec vous. (あなたの意見にはほぼ賛成というところです) 14) Simplement, j'ai quelques petites choses à ajouter. (ただ、ちょっと付け加えることがあるだけです) 15) Il nous faudrait prendre toutes les possibilités en considération. (我々はあらゆる可能性を考慮に入れるべきじゃないかな) または Il nous faudrait considérer cela sous tous ses aspects. (我々はあらゆる角度から検討した方が良いの じゃないかと思う)
して、その心は・・・(ギャー)
1) Je comprends ce que vous voulez dire. (あなたのおっしゃりたいことはわかります) Mais, c'est pas grand-chose. Laissons tomber.(でも、その意見ってたいしたことないからスルー。) 慰め顔で言われることが多い台詞。
2) Avec un grand respect, (心からの尊敬を込めつつ) これについては、言葉通りのことが多いのでは。ただ、「こんなアホな意見にも、一応は最低限の礼儀を示してやった」という意味として使えなくもない。(←意地悪)
3) C'est pas mal (du tout) ((全く)悪くないね)= C'est génial ! C'est très bien ! (いいじゃん!最高!)
一般的によく使われます。ひねくれもののフランス語思考がよく体現されています。
4) C'est une proposition très brave (勇気ある提案ですね) イギリス人のコンテクスト同様「おまえあほか」という罵りを何重にもオブラートに包んだ意地の悪い表現ですが、単純に「よく空気読まずにこの場でそれが言えるな」という感心が思わず漏れたとも言える、または「このKY野郎、さて、この場をどう立て直して行くか・・・」と焦りながらのつなぎの言葉として使われることもあります。
結局、「T'es con (あほだな、おまえ)」という意味になるのんですが。
5) Assez bien (plutôt bien/bon) (まぁまぁ良いんじゃない、良い方だと思うよ) そのままの意味として受け取っていいんでしょうが、むしろ「Je m'en fous (どうでもいい)」というのが本音かもしれません。
イギリス人のように「こいつダメじゃん」という意味では使わないかも。
6) Je voudrais vous proposer... (提案したいと思うのですけれど・・・) これも、そのままでは。まあ、こちらの提案を述べた後に笑顔でこう言われたら、相手の用意して来たものにはほぼ興味がない、聞く気がない、つまり「Votre idée ne me dit rien (あなたのアイデアは何も響かない)」、もっと言うと、 「Votre idée est n'importe quoi (あなたのアイデアはクソの役にも立ちません)」と暗に示しているのかも。
イギリス人の言う「ちゃんとやれよ」よりもこわい。
7) Au fait / A propos (ところで) このさりげない導入の後に、核心に切り込んで来るのはどこの国でも一緒だろうと思いますが、いかがでしょう。
8) Je suis un peu déçu par là (それにはちょっと失望したな) = T'es nul, c'est ta faute. (あんた使えねぇな、あんたのせいだよ)
以前から、この「decevoir」という動詞には本当に背筋の凍る思いを幾度もさせられている。「là」 に当たる内容があなたの行為や意見を指し示している場合、上記のような訳になると言って良い。「un peu(ちょっと)」は残念感の増幅の意として反語的に使われており、自分の信頼が裏切られたと受け身形をとっていることで、「お前が悪い」感をより一層にじませています。不機嫌そうにおもむろにぎろりとにらみ、ため息まじりに「失望させられた」と反吐が出るように言うのが正しい使い方。
9) Très intéressant (とても興味深い)
文字通り使われることも多々ありますが、あまりに突飛過ぎて =「 Je ne comprends rien (意味不明)」という意味が含まれることもあります。
10) Je tiendrai compte de ça. (考慮に入れるようにしますよ) と、言われて考慮に入れて貰えたためしがないので、これはほぼイギリス人と同じ使用法で
「C'était quoi déjà, tes propositions ? (お前の提案って何だったっけな?)」 と同義語だと思った方が賢明。
11) Je suis sûr que c'est ma faute. (本当に私のミスですよ) これは、純粋に言葉通りで「私が悪かった」と使うものの、そこに若干の「bravade(虚勢)」が含まれることが多い。つまり、「(あんたのアホさ加減を予見できなかった)私のミスです」という意味。 ちなみに、日本人のように「私が悪いの」「いえこちらこそ」と言い合う光景はあり得ない。むしろ、「あなたは悪くない」とは言いますが「私が悪かった」とは死んでもいわないはず、フランス人なら。
12) Tu dois venir dîner chez moi. (うちに夕ご飯食べに来なくちゃね) イギリス人特有の言い回しとして有名だけれど、フランス人の場合は仲良くなる気がない人にはこんな思わせぶりなことは言わない。ただし、その時には夕食に呼ぶ気満々だったのだけれど、すっかり忘れてしまった(またはふりをしている)ということはよくあることです。フランス人心と秋の空。
13) Je suis presque d'accord avec vous. (あなたの意見にはほぼ賛成というところです) Mais...(でも)と必ず続く。賛成してないじゃん!
14) Simplement, j'ai quelques petites choses à ajouter. (ただ、ちょっと付け加えることがあるだけです) 学生時代のレポートや発表の総評で先生がよく使っていた言い回し。主に14)との合わせ技「Je suis presque d'accord avec vous, mais simplement, j'ai quelques petites choses à ajouter...(あなたの意見にはほぼ賛成なんだけれど、ちょっと付け足すとすれば・・・)」で、生徒は煙に巻かれることになる。
15) Il nous faudrait prendre toutes les possibilités en considération.(あらゆる可能性を考慮に入れるべきじゃないかな) または Il nous faudrait considérer cela sous tous ses aspects.(あらゆる角度から検討した方が良いのじゃないかと思う)
公平な視点、バランスの取れた思考力を思わせる発言に見せかけて、要は「Je refuse ton idée (あんたのアイデアはボツ)」と言っています。勘違いしないように。
※実体験からの解読であり、受け取り方には個人差があります。間違っても丸暗記したりしないで下さい。
言葉を学ぶって、表側の活用とか文法とかを如何に間違えないで使うかにばかり目が行きがちですが、こういう「行間を嗅ぎ取る」ことができる能力も必要だと思います。体得するって、語学ではなんだか遠い感じがしますが、こういう一種の「言語外現実」というのはまさに身体で「感じ取る」ことからしか知ることができないものなのです。これは日本語でもできないと生きて行く時につらい。
外国語って「めんどくせー」と思ったりもするのですが、日本語の中にいるだけでは絶対に出会えることのない楽しさだし、身体(感覚)で「わかる」っていうのは、鉄棒で前まわりができるとか、跳び箱が飛べた時なんかと同じような快感なのだと思います。