大学の私のクラスでは1学期に2回テスト(小テスト・期末試験)をしている。その奮闘具合は大いに成績に反映されるので、当日は、みんなピリピリヒヤヒヤしながら教室にやって来る。 試験の日、20分以上の遅刻者は、正当な理由がない場合はお帰りいただく。気のゆるみにせよ(ここで気がゆるむことそれ自体がすでに問題だけれど)、精神的・身体的な問題があるにせよ、大事な日にきちんと間に合えないというのは、勉強云々以前の問題で、まずそこをなんとかしない限り、社会では信用してもらえない。 ある年の試験日、遅刻魔の彼は、20分過ぎに飛び込んで来た。 茶髪はボサボサ、猛烈に走って来たのか、ハァハァと肩が上下した状態で、私の前に立つ。 「20分過ぎてるよ。」 「ハイ。」 「寝坊した?」 「ハイ。」 「学生証。」 「あ・・・」 彼は非常に大柄で、座っている私の前に立つと、多分向こうからは完全に私が隠れてしまう。 その熊のような彼が身体を縮めてゴソゴソとリュックをかき回して学生証を探している間、ふと私が顔を上げると丁度彼の股間が私の目の前にあった。社会の窓がオッス!と全開になっている。この開け放した状態で、このでっかい身体が全力で走って来たのかと思ったら、笑いが温泉のようにこみ上げてくる。 「・・・時間一杯がんばりなさい。」 「ハイ。」 チャックあいてるよ、と言おうかと思ったのだけれど、試験前に変なダメージを与えてもなと、考え直し、気づかないふりをした。試験の後トイレに行けば嫌でも気づく。しょーがねーなーもう。 彼は集中力と「馬力」があり、やればぐいぐい進めるタイプなのだけれど、こういう落ち着きのなさから、その時の試験も問題の読み違いをして取れる問題を落としていた。答案を見ながら、ためいきが出た。