ツ・ブーム

今日は古フランス語(ancien français)の小テスト。

古フラ語は現代フラ語とぜんぜん活用が違う。 ラテン語とも微妙に違う。

ラテン語よりは適当でいい加減なんつ。 その辺がフランスの特色をよく反映してるんつ。

で、すっかり「語尾ツ」ブーム。 古フラ語で語尾がtの単語に複数形のsを組み合わせるとz(「ツ」という発音)になる。基本的に現代フラ語では発音しない語尾の子音も発音する。 vent (風ヴァン) は 「vant ヴァン」、複数形は「vanz ヴァンツ」 いちいち語尾のsとかzとかを発音していると妙に耳に残ってしまう。それでついつい普通のフラ語を読んでも語尾まで発音して田舎くさくして遊んでいたら、最近とうとう日本語にまで影響がでてるんつ。 誰にもわかってもらえない超マイナー方言(?)ブームなんつ。

ちなみに「語尾ス」ヴァージョンもありんす。でもこれ、ちょっと花魁っぽくなったり、意外に日本語にマッチしてあんまりおもしろくないんす。 最近、どうも、何を見ても笑えてくる。しゃんぴにおんの中にワライダケが混じっていたんだろうか。 過去の爆笑ネタも、急にふと浮かんできて一人で笑ってしまう。 そういうお年頃なのかなー。

こうやってへらへらしているので、ラテン語とか古フラ語ってそんなに楽しいのかなとたまに勘違いされるのですが、 わたしとしては、禅の苦行みたいなもんなんじゃないかと思ってるんつ。 (お坊様の修行と比べてはいかんのかもしれないが・・・)

フランス語を始めたときに、誰もがげんなりさせられる女性名詞・男性名詞ですが、ラテン語や古フラ語を前にすると、たった2つしかカテゴリーがないことがありがたくさえ感じてしまいます。しかも、単数複数の変化はsとかxとかを付ければいいのでややこしいことはそうないし。

古フラ語は名詞の語尾が4つの形に変化します。名詞の種類も男性・女性ともちろんありますが、それぞれの語尾変化のパターンがさらに3種類ずつあります。 あー、書いている本人もわけが分からなくなる。

上のvant(男性名詞)なら次の語尾変化をします。

CSS li vanz

CRS le vant

CSP li vant

CRS les vanz

CS (Cas Sujet 主格) は主に主語や呼びかけなどの位置におかれる場合の形。 CR(Cas Régime 対格)はそれ以外の補語として使われる場合の形。 それぞれ単数形(Singulier)と複数形(Pluriel)があります。 liとかlesとかは冠詞です。

つまり語尾変化の形と、冠詞(省略されることも多々あり)を見て、その名詞が主語として使われているのか、それ以外なのかということや、単数複数を見分けるということになります。 こういった語尾変化の種類が男性名詞に3タイプ、女性名詞に3タイプある。

この古フラ語も、ラテン語から見れば全然楽。 ラテン語は男性・女性のほかに中性名詞があります。 それぞれの名詞は5つのCas(格)と単数複数にしたがって語尾変化をします。 その語尾変化の種類も5パターンあります。 人の名前だって、神様の名前だって語尾変化。 たとえばシーザー(Caesar)は

Caesar, Caesar, Caesarem, Caesaris, Caesari, Caesare ...(複数形は省略)

もちろん動詞も活用します。活用の変化は5つのタイプがあります。 ひとつの活用タイプの中には 能動態  現在形・半過去・未来・過去・大過去・近接未来・不定・現在分詞・過去分詞・未来分詞  受動態 現在形・半過去・未来・過去・大過去・近接未来・不定・現在分詞・過去分詞・未来分詞 と、ずらずら時制の種類があります。 もちろんそれぞれの形態につき、6称(Je, tu, il, nous, vous, ils)に活用をします。

こんな風に、単語の活用や語尾変化でその働きを知ることができるので、ラテン語文は単語のポジショニングが非常に自由。活用さえ覚えていればどこに何の単語を置こうとほとんど関係ないわけだから、左から順番に主語・動詞・補語と書かれている場合はほとんどなし。

形容詞も現在のところ3パターンの語尾変化を習いました。 そのほか、代名形容詞などというのもあれば、代名詞の語尾変化もあったりして、もう笑うしかないんす。

これだけ厳しいルールをがっちり決め込んでしゃべっていたということは、発する言葉と発信者の内面がかなりぴったりと一致してたんじゃないかなという気がします。 フランス語というのは、本当に言葉を「表現」として扱う。だから単語が山ほどあって本当に微妙な心の動きを「言葉」という音を使ってぎりぎりの所まで表現しようとしている言語だなぁと思う。普通に話していても、使う言葉を「いや、今のはそれよりもむしろこの言葉を持ってくるべき」みたいなことをよく言われる。

語学を始めてから、わたしの「与太郎」こと脳みそは、わたしがもっとも苦手とする「覚える」ということばかりを徹底的にやっている。意識的な記憶の訓練というのかな。たまに彼は「虐待だー」と泣いたりしている。 最初はどうやって単語を覚えたらいいのか分からなかったし、何度やっても忘れて、辞書を引くたびに一度探した印がついているとうんざりしたものでした。 ある程度記憶の貯金ができると、どうしてこの単語はこんな形になったのかというのが辞書に並んでいる前後の単語からなんとなく分かったり、ラテン語からの進化が元になっていることが分かったりすると一発で記憶に塗りこめられたりする。

世の中には「教科書は一回読めば覚えちゃうから、特に勉強せずに試験で高得点」といううらやましい人がたくさんいる。 一度でいいから、言ってみたいセリフだよなー。 ちょっと、申し訳なさそうな感じで言うんだよなぁ。