誕生日でもあり。 ジャンボ過ぎてケーキに乗らなかったジンジャーブレッドガールろうそく。
そのとき、わたしは青いチェックのボーイズサイズのシャツに紺のシガレットデニム、コンバースという格好で助手席に座っていて、彼の白と紺のキャップを被った。
「そうやってると、本物の男に見える」 「どうする、本当に男だったら?」
いつものように静かに妄想していた彼は、しばらくして言った。
「しょうがねぇな。」
その返答が、悩ましげな焦燥感の中にあきれたような、怒ったような、それでいて腹を括ったような、もうお手上げのような、なんだか色々な感情が混ざり合って不思議な響きで放たれたので、おかしくておかしくて、お腹を抱えて笑った。本当の本当に男になったわたしを前にしても、この人はやっぱりこんな調子で「しょうがねぇな」と言うのだろう。
それから約一年経って、偶然またそのキャップをわたしが被った。
「俺より男前だ」
デニムに、彼に借りた穴のあいた古着のTシャツ(それが一番サイズが小さかった)、ヒールのないトングという、やっぱりさっぱり色気のない出で立ちのわたしは、そういえば・・・と一緒にいた彼の母に「しょうがねぇな」の話をして、また笑う。
「いや、もし本当に男だったとしても、もうこのまま付き合ってくしかしょうがねぇなと思って」 という彼の冗談のような本気の覚悟表明に、ははぁ、そういう意味だったからあんな妙音が出たのかと腑に落ちた。
その昔「わたしがオバさんになっても」という曲が流行ったけれど、「わたしがおっさんになっても」という不条理な可能性さえも引き受けてくれようという懐の広い人でよかったなぁ、しかし、うっかりおっさんになってしまわぬように気をつけよう、などと婚姻届を出した帰り道に心に誓ったのであった。
姓が変わったら某ジャズシンガーさんと同姓同名になってしまいました。